世界中でヴィーガンやベジタリアンが増えていると言われています。
ヴィーガンが認知されてきているため、ファッションのような流行だと捉えている方もいるでしょう。
しかし、話はそう単純ではありません。
人間至上主義が生み出した健康被害や環境破壊、動物虐待など、深刻な問題が背景にあります。
世界で急増しているヴィーガンを深掘りしていきます。
ヴィーガン(Vegan)とは
ヴィーガンとは、「不可能でない限りで動物の搾取を避けるべきであるという主義」を表す「ヴィーガニズム」から派生した言葉です
。ヴィーガニズムに沿った行動を日常生活で実践する人を指します。
ヴィーガニズムの概念は、1944年初めに英国のThe Vegan Societyによって提唱されたのが始まりです。ヴィーガンは「完全菜食主義者」と訳されることが多いですが、ヴィーガンは単なる食事制限にとどまらず、ヴィーガニズムの主義に沿った行動は、衣食住すべてに影響をもたらし人間の生活全般に反映されるため、「動物を搾取しない」というその思想自体にあるといえるでしょう。
食に関してヴィーガンを体現するということは食品全体、または部分的に動物や動物由来の成分が使用されていないことが大前提です。肉や魚、動物由来である乳製品や卵、はちみつなども食べません。食以外の分野では、動物由来の加工製品(日用品・皮製品・シルク・ウール・化粧品など)も利用しません。動物実験を行った商品の購入・使用もしません。娯楽のための動物の利用(動物園や水族館など)も肯定しません。
ヴィーガンであるとは日常生活のあらゆる場面において動物の搾取を避けることを指します。
ヴィーガンとベジタリアンの違い
まず、ベジタリアンの定義です。ベジタリアンの語源は、野菜の「ベジタブル」と思われがちですが、実はラテン語の「vegetus(ベジェトゥス)=健全な、新鮮な、元気な」という言葉からきています。
ベジタリアンとは、菜食主義者の総称で、実はさまざまなタイプに分けられます。どのタイプも野菜や果物、いも類、豆類、きのこ類などの植物性食品を中心とした食生活で、肉類を避ける点では共通していますが、微妙に異なります。 ベジタリアンは細かく区分されています。
・オボ・ベジタリアン(Ovo-vegetarian) 菜食で肉・魚は食べないが、卵・乳製品は食べる。
・ラクト・ベジタリアン(Lacto- vegetarian) 菜食で肉・魚・卵は食べないが、乳製品は食べる
・ペスコベジタリアン(ペスカタリアン) 菜食で肉は食べないが、魚・卵・乳製品は食べる。
・セミベジタリアン 菜食で時々肉は食べるが、肉を基本的には避けている。
・ヴィーガン(vegan) 菜食で肉・魚・卵・乳製品・蜂蜜など動物に由来するすべての食品を食べない。 その他
・マクロビアン(Macrobian) 「身土不二」「一物全体」「陰陽調和」がベースとなった玄米菜食。
・フルータリアン(Frutarian) 植物でも本体を殺すことなく採取できる果実やナッツなどを食べ、穀物や調理加工されたものを採らない。
ベジタリアンの中にヴィーガンがあると考えるとわかりやすいです。ヴィーガンは完全菜食主義というこだわりだけでなく、生き方にも動物由来を搾取しない主義を貫く人といえるでしょう。
ヴィーガンになるのはなぜ?ヴィーガンになる理由とは
なぜヴィーガンになりたいのか、肉食が当たり前の世の中で敢えてヴィーガンを選択するのでしょう。最近は、健康志向がブームでオーガニックをはじめ、地球環境を意識したライフスタイルが注目されていますが、今までの食生活を一気に変えるのはかなりの勇気が必要です。海外でセレブを中心にアスリートにも人気のヴィーガン。ヴィーガンになる理由についてみていきましょう。
健康上の理由でヴィーガンになる
最も多いのは健康を重視している人かもしれません。
ダイエタリー・ヴィーガンとは、主に食生活を意識する主義で、植物性のみの食生活で、すべての動物性食材(肉類・魚介類・たまご・乳製品・ハチミツ)を一切食べません。動物性食品による生活習慣病を予防したいなど、健康面を懸念してヴィーガンになる人です。このような食事がメインのヴィーガンの中には、毛皮を着たりエシカルに一切興味を持たない人もいます。食生活においてはヴィーガンと同じですが、日用品などの買い物は比較的自由です。
環境保全が目的でヴィーガンになる
「人間がステーキやフライドチキンを食べるためには、食用になる動物を育てる必要がありますが、畜産は地球温暖化への影響があるため環境に悪いと考えてヴィーガンになる人です。
畜産は車の排気ガスよりも地球温暖化を早めると言われていますので、肉を生産すればするほど地球へのダメージが増大していきます。
魚介類についても、食用のために乱獲することで生態系が変わり、海から魚がいなくなることもヴィーガンが懸念するところです。他にも森林火災、ハリケーンなど、地球温暖化による環境破壊の被害をきっかけにヴィーガンになる人がいます。
動物愛護が目的でヴィーガンになる
エシカル・ヴィーガンと呼ばれる人たちは、動物愛護が理由でヴィーガンになる人です。「エシカル」とは英語の形容詞・ethical を、そのままカタカナに置き換えた言葉で、論理的という意味があります。エシカル・ヴィーガンの人は食料品だけでなく動物実験をする薬やコスメなど、可能な限り動物を利用する日用品は使用しないという思いが強くあります。
ハチミツはミツバチから搾取、乳製品、卵、カイコが紡ぐシルク製品も買いません。サトウキビから作った砂糖も使用しません。砂糖の製造過程で白く脱色するために使う牛の骨を原料にした「骨炭」が利用されています。
エシカル・ヴィーガンの考え方
エシカル・ヴィーガンが貫くヴィ―ガニズムとは、「人間が動物から搾取することなく生きるべき」という本来の思想のことです。エシカル・ヴィーガンは、可能な限り動物搾取を避けたいので、食だけでなく毛皮やウール、レザーやダウンなどの動物由来の製品を使用しません。
動物搾取の実態
エシカル・ヴィーガンは、ちょっとこだわり過ぎように感じるかもしれません。しかし、エシカル・ヴィーガンを選択する背景には、それなりの理由があります。それは、人間至上主義のために被害を受ける動物たちの苦しむ姿があるということです。
世界では概算で1億1,530万頭、日本でも2,000万頭(推定)の命が、毎年動物実験によって失われているといいます。代替法も少しずつ開発されているといいますが、密室で行われる動物実験、その実態はまだまだ明らかになっていません。
NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)
- 化粧品のためによく行われる動物実験には、皮膚刺激性試験がありウサギやモルモットの毛を剃って、試験物質を塗布し刺激や腐食の状態が観察される。
- ヤギは人工心臓の実験に使われます。また家畜として品種改良のための実験にも使われます。
- 豚は心臓の手術の実験体として無菌飼育されて利用されています。
そして、実験で使われた動物は、試験後に殺処分されてしまいます。
生物として考えれば、人間と動物に優劣はありませんが人間の安全確保のために、当然のように行われている動物実験。動物利用は倫理的に問題があることは明らかですがそこに触れることはタブーとされている。
どうにかしなければいけないとエシカル・ヴィーガンの人は自分の生活で意思表示をしているのです。買い物は投票である。何を選択するかで未来は変わってゆきます。一度立ち止まって自分の生活のあり方を考える一助となると幸いです。
ヴィーガンはどれくらいいる?
日本のヴィーガン人口は推定300万人
日本のヴィーガン人口正確に算出するのは困難ですが、「第4回日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査 by Vegewel」が2023年に実施した調査では、ヴィーガンだと回答した人の割合は2.4%となりました。この数字を当てはめると、日本の人口約1億2400万人の2.4%、約297万人がヴィーガンとなります。日本でも少しづつではありますがヴィーガン人口は増えているようです。
世界のヴィーガン人口は推定約8000万人
世界のヴィーガン人口は推定約8000万人(人口の1~3%未満)と言われています。ヴィーガンとベジタリアンの区別は正確には難しいため、正確な数字を算出することはできません。
国連によると現在の世界人口は約80億4500万人なので、前述の1~3%未満から考えると、現在のヴィーガンの数は世界中で約8000万人(もしくはそれ以上)の推計となります。
ヴィーガンは健康?不健康?
ヴィーガンは取り入れ方次第で健康にも不健康にもなります。 ヴィーガンは肉類、魚介類、乳製品、卵、はちみつといった動物性食品を一切口にしません。そのため、不足しがちな栄養素が出てくるのは事実ですが、健康へのメリットがあることも事実です。
肉を食べる人に比べて、菜食を実践している人はがんの発症リスクが低いです。また、肉に含まれるコレステロールや飽和脂肪酸の摂取を抑えられるため、内臓脂肪が減り、生活習慣病のリスクが下がります。
植物性食品を摂取するからといって、過信はいけません。ファーストフードや添加物てんこ盛りの食品ばかり食べていたら、不健康を助長することは容易に想像できるでしょう。 偏った食品ばかり食べると、栄養バランスが崩れます。ヴィーガンの健康効果を得るためには、植物性食品の中でも栄養素に偏りがないよう、バランス良く食べることが重要です。
では、ヴィーガンを実践する場合、どのような栄養素を意識的に摂れば良いのでしょうか。当たり前ですが、動物性食品に多く含まれる栄養素が不足しがちになります。具体的な栄養素を示します。
<たんぱく質>
肉や魚、卵には良質なたんぱく質が豊富に含まれています。たんぱく質が不足しがちになるのは事実ですが、穀物や野菜にもタンパク質は含まれているのでそこまで意識する必要はありません。たんぱく質が不足すると、髪や爪、皮膚などに影響を及ぼすだけでなく、免疫力の低下につながる可能性があります。
<ビタミンB12>
レバーや魚介類に多く含まれるビタミンB12が不足します。 ビタミンB12が不足すると、貧血、脳や神経の機能低下などを引き起こす可能性があります。ですが、ビタミンB12は腸内細菌によっても合成されるため、急激に減少することはありません。胃全摘手術などにより、内因子の分泌がない場合には、吸収出来ずに減少する可能性はあります。場合によってはサプリメントが必要になることもあるでしょう。
<ビタミンD>
カルシウムの吸収を助ける働きがビタミンDは、鮭などの魚類に多く含まれているため、不足しがちになりますが代替品があるのでこれはそこまで気にする必要はありません。ビタミンDが不足すると、カルシウムの吸収が悪くなります。また免疫機能の低下に繋がります。
<カルシウム>
牛乳などの乳製品や、小魚などに多く含まれるカルシウムもヴィーガンに不足しがちな栄養素と言われますが代替品がありますので問題ありません。カルシウムが不足すると骨粗鬆症の原因に。
<亜鉛>
牛肉や豚レバー、カキやホタテなどに多く含まれる亜鉛も、ヴィーガンに不足しがちな栄養素です。亜鉛が不足すると免疫力が低下し、疲れやすくなったり、肌荒れを起こしたりします。亜鉛は味覚を正常に保つ機能があるため、不足すると味覚障害を引き起こします。亜鉛も代替品があるので問題ありません。
<鉄分>
鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、ヘム鉄は動物性食品にしか含まれないため、ヴィーガンは非ヘム鉄しか摂取できません。非ヘム鉄はヘム鉄よりも体に吸収されにくいです。しかし、一般に日本人が食事から摂取する鉄の85%以上が吸収率の低い非ヘム鉄なのが現状です。そのため、通常より多く鉄分を摂る必要があるでしょう。鉄分不足になると、貧血やだるさ、頭痛や免疫力の低下などを引き起こす可能性があります。
<オメガ3脂肪酸>
オメガ3脂肪酸は青魚などに多く含まれているため、ヴィーガンには不足しがちな栄養素と言われていますが、代替品があるのでそこまで心配する必要はありません。オメガ3脂肪酸は脳の機能を正常に保つ働きがあるため、不足すると脳や神経、皮膚などに悪影響をもたらす恐れがあります。
ヴィーガンは決して不健康なわけではなく、取り入れ方次第で健康効果を得ることができます。とはいえ、動物性食品から突然植物食品に変えると身体がすぐに対応できないため、不具合が出るのは事実です。代替品を上手に活用すれば、ストレスフリーで健康的なヴィーガンライフを送ることができるでしょう。
ビーガンが食べる食品
動物性食品を食べないと言うと、何を食べるのだろう想像してしまいますが、必ずしも野菜と豆だけを食べているわけではありません。工夫しだいで十分満足できるビーガン料理が多くあります。
穀物(米・小麦・豆類・蕎麦・ごま・オートミールなど)、緑黄色野菜、いも類、きのこ類、ナッツ、海藻、くだもの等を食材に使います。
和食は出汁の問題を除けば、ほとんどがビーガン料理です。ヴィーガン料理だしの基本は、海藻・キノコ類・野菜です。肉料理の代用として、豆類や豆腐、大豆ミート、テンペ、ナッツ、種子類で置き換えが可能です。ですのでハンバーグやピザ、サンドイッチは簡単にビーガン仕様にすることができます。
乳製品は、豆乳やオーツミルク、アーモンドミルク、ココナッツミルクなどを代用できます。 最近はSNSでも彩り豊かなビーガン料理を見かけることが多くなりました。見た目でも味でも十分満足できる料理がどんどん開発されてきています。
自分の身体にも地球環境にも動物たちにも優しいライフスタイルがヴィーガンです。肉なし生活を始めてみると様々な気づきがあることでしょう。
代替肉にはメリットがいっぱい!?デメリットは?
近年、日本でも注目されている代替肉ですが代替肉とは、植物性の原材料を使い、肉の食感や味わいを再現した肉のことで、英語では「プラントベース
ミート」と呼びます。 植物性の原材料には、大豆、エンドウ豆、そら豆、小麦などがあります。これらで作られた代替肉は、大豆ミートやソイミート、フェイクミートなどとも呼ばれています。 最近では、ファーストフード店などでも代替肉を使ったハンバーガーが気軽に食べられるようになってきています。
代替肉のメリット
<環境負荷を軽減できる>
代替肉は植物性の食材を原料としているため、畜産業に比べ温室効果ガスの発生や森林伐採を抑えられます。 牛、豚、鶏などを飼育する畜産業では、温室効果ガスが大量に発生します。牛のゲップから出るメタンは、地球温暖化を促進する原因といわれています。 また、畜産業には広大な土地が必要であり、森林伐採が行われ野生動物の生息地が奪われている現実があります。畜産肉から代替肉に切り替えることで、環境負荷が軽減できます。
<食糧危機、飢餓問題の回避になる>
世界の人口は増加の一途をたどり、2050年には人口が97億人を超えると予測されています。従来の畜産では、十分な肉の供給ができなくなるでしょう。代替肉を普及させることによって、食糧危機を回避できます。 また、畜産は大量の穀物を消費します。牛肉1kgを生産するのに、トウモロコシ11kgが飼料として必要です。効率の悪い畜産を止め、さらに代替肉を普及させることで、穀物を家畜の飼料から人間の食料に回すことによっても、食料危機・飢餓問題を回避できることでしょう。
<動物愛護に貢献できる>
代替肉は、動物愛護の観点からも積極的に取り入れられています。特にヴィーガンの人は、「動物搾取をしない生き方」が根底にあるので代替肉は福音です。
代替肉のデメリット
<価格が高め>
代替肉のデメリットは、価格が高いことです。まだまだ市場は小さく、大量生産が難しいため、低価格での販売には至っておりません。今後の課題となるでしょう。
<畜産業界、食肉業界へのダメージ>
畜産業界、また食肉業界へのダメージは避けられないでしょう。代替肉が世界的に普及し、需要が高まれば、それに伴って畜産肉の需要が減ります。畜産業は衰退の一途を辿るでしょう。そこで働く人は転職を迫られることになります。 代替肉は、環境負荷の軽減や食糧危機の解決、動物愛護への貢献、身体への負担が少ないなど、健康面でもおすすめできメリットが多い食材です。
ヴィーガンが環境負荷を軽減する理由
畜産業が環境に与える影響
畜産業では、水、土地、穀物などの資源を大量に消費します。
・水
家畜が飲む水だけでなく、えさとなる穀物を育てるためにも使われます。畜産業を含む農業は、全世界の水使用量の約7割を占めるといわれています。
牛肉1kg分を生産するには、水が約20600リットル必要です。一方、大豆1kg分を栽培するために必要な水は、約2500リットル。牛肉1kgを生産するには、大豆の8倍以上の水が必要です。
欧州の研究ではヴィーガン食に切り替えることで、水の使用量が35%〜55%少なくなると発表しており、畜産業が水問題に与える影響は大きいと考えられています。
参照:農林水産省−世界の水資源と農業用水を巡る課題の解決に向けて
参照:BBC NEWS JAPAN 良質な食事は地球のために、水節約で 欧州委調査
・土地
家畜を育てるには、牧草地・飼料となる穀物用の畑といった多くの土地が必要になります。2050年には世界の人口が97億人になると予測されており、2010年時に比べ1.7倍の食糧の確保が必要です。
人口増加に伴い肉の需要が高まれば、さらに多くの土地が畜産のために必要になります。土地を確保するために、森林伐採→野生動物の住処がなくなるといった問題に発展します。
参照:農林水産省−2050年における世界の食料需給見通し
・穀物
畜産業は、穀物も大量に消費しています。牛肉を1kg生産するには、とうもろこし換算で約11kgの穀物が必要です。世界で生産される穀物の3分の1が家畜に与えられる一方で、飢餓に苦しむ人々も約7億3500万人存在します。
家畜のえさとなる穀物を人間に供給できたとしたら、約40億人もの人々を養えるともいわれています。
参照:hunger free world 参照:西尾道徳の環境保全型農業レポート
・温室効果ガスの排出
国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界の温室効果ガス排出量の31%が食システムに由来すると推定されています。畜産業がもたらす人為的に排出される温室効果ガス排出量は全体の14%を占めています。
牛のゲップから出るメタンは、二酸化炭素の約25倍の温室効果があるとされ、地球温暖化の原因のひとつです。
・水質汚染
畜産業における水質汚染も問題です。適切に処理されなかった家畜の排せつ物によって、川や海の水質汚染が発生しています。 これによって、川や海の生態系が影響を受けるだけでなく、生活用水にまで影響を及ぼすことが懸念されています。
参照:農林水産省ー畜産環境問題とは
ヴィーガン(Vegan)は栄養が不足する?と心配な方へ
ヴィーガン生活を実践する上で心配になる栄養素について解説します。
動物性食品を摂取しないため不足が予想されるミネラルがあります。
- ビタミンB12
- ビタミンD
- 必須脂肪酸であるEPAやDHA
- カルシウム、亜鉛、ヨウ素
などが挙げらます。
ビタミンB12
ヴィーガンの食事ではビタミンB12を摂取する機会は明らかに減少します。
ビタミンB12は、動物性食品に多く含まれています。
ビタミンB12は、出生時に母体や母乳より必要量の数千倍が引き継がれると言われています。
加えてビタミンB12は、腸内細菌によっても合成されるので、一般に欠乏することはないと考えられます。しかし、ビタミンB12は胃から分泌されるタンパク質である内因子と結合して小腸(回腸)から吸収されるため、胃全摘手術をした人では、内因子が不足しビタミンB12が吸収されず欠乏する恐れはあります。また小腸にトラブルがある方も注意が必要です。
ビタミンB12が不足すると造血作用がうまく働かず、巨赤芽球性貧血になります。また、脊髄や脳の白質障害、末梢神経障害が起こり、しびれや知覚異常の症状として現れます。
動物性食品を摂取している人に比べれば、ビタミンB12の血中濃度は下がるでしょう。だからといってすぐに欠乏することもないようです。
ビタミンB12を補う方法
1日あたりの成人の必要量は2.4μgと言われています。
ビタミンB12は陸上の植物には含まれておらず、海苔やアオサなどの海藻からしか摂取できません。
【100gあたりのビタミンB12摂取量】
・海苔:58μg
・アオサ:1.3μg
・ワカメ:0.3μg
含有量の最も多い海苔で考えると、1切れあたり約0.4gになりますので、味付け海苔10切れほどで必要量が摂取できる計算になります。
ビタミンD
ビタミンDにはD2からD7の6種類あり、D4~D7は食品にはほとんど含まれていないため、一般的にはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)のことをいいます。
ビタミンD3は、ヒトの皮膚に存在するプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール、プロカルシフェロール)が、紫外線に当たることによって生成した、プレビタミンD3(プレカルシフェロール)から生成されます。
ビタミンD2は、しいたけに含まれるプロビタミンD2(エルゴステロール)から生成されます。
ビタミンDの吸収と働き
ヒトを含む哺乳動物では、ビタミンD2とビタミンD3はほぼ同等の生理的な効力をもっています。ビタミンDは肝臓と腎臓を経て活性型ビタミンDに変わり、主に体内の機能性たんぱく質の働きを活性化させることで、さまざまな作用を及ぼします。ビタミンDの生理作用の主なものに、正常な骨格と歯の発育促進があります。さらに、小腸でのカルシウムとリンの腸管吸収を促進させ、血中カルシウム濃度を一定に調節することで、神経伝達や筋肉の収縮などを正常に行う働きがあります。
ビタミンDの1日の摂取基準量
日本人の食事摂取基準(2020年版)では1日の摂取の目安量が、18歳以上の男女ともに8.5㎍(マイクログラム)、耐用上限量が100㎍と設定されています。
【100gあたりのビタミンD含有量】
・きくらげ(乾燥):85μg
・干ししいたけ:17μg
・えのきたけ:0.9mg
・ぶなしめじ:0.5mg
乾物やきのこ類を組み合わせることで必要量は摂取できそうですが、含まれている食材が限られるため常食とするのは難しいかもしれません。
日照に恵まれている日本では、健常人が適度な日光のもとで通常の生活をしている場合、ビタミンDが不足することは少ないと考えられます。しかし、高齢者では、皮膚におけるビタミンD産生能力が低下することに加え、屋外での活動量減少により日光照射を受ける機会が減少する場合もあり、通常よりも多くのビタミンDを食事から摂取する必要があることが指摘されています。日ごろ、日光に当たる機会が少ないと感じている人は、意識して食事からビタミンDを摂取することすることが大切になるでしょう。
DHA・EPA
人間の脳や目の網膜の脂質成分で、脳や目の機能を健全に保つDHA(ドコサヘキサエン酸)。
そして、血流を良くし、中性脂肪を低下させる役割があるEPA(エイコサペンタエン酸)。
1日の必要量は、DHAとEPAを合わせて1gと言われています。
しかし、これらは青魚にしか含まれていないため、
ヴィーガンの食事で摂取することができません。
代替品としてALAがあります。体内に入ったALA(α-リノレン酸)の一部は、EPAやDHAに変換されます。
ALA(α-リノレン酸)は、オメガ-3系脂肪酸の一つで、体に必要な不飽和脂肪酸の一種です。主に植物の種子や葉緑体などに見られ、亜麻仁油、チアの種子、くるみ、大豆油などの食品に含まれています。
ALAは、体内でEPA(エイコサペンタエン酸)およびDHA(ドコサヘキサエン酸)に変換されますが、この変換は比較的効率が低い(10〜15%)です。
ALAは、心血管系の健康維持、炎症の調節、脳機能のサポートなどに関与していると考えられています。特に心臓病の予防や管理において、ALAが健康に寄与する可能性が指摘されています。
食事においては、亜麻仁油、チアの種子、くるみ、大豆油、えごま油などがALAの豊富な摂取源となります。
ALA(α-リノレン酸)の1日の必要量は2gです。
・くるみ:77g~115g
・亜麻仁油:11.6~17.5g
・えごま油:10.6g~16g
大さじ1程度の亜麻仁油やえごま油で十分に補えることから、
ヴィーガンでも比較的簡単に摂取できる栄養素と言えます。
カルシウム
カルシウムは、人体において重要なミネラルの一つです。主に骨や歯の形成、神経伝達、筋肉収縮などに関与しています。食品からの吸収が主な供給源で、乳製品、葉緑野菜、堅果類などに多く含まれています。不足すると骨折や筋肉の機能障害などが起こる可能性があります。日常の食事で適切なカルシウム摂取を心がけることが重要です。
カルシウムは、体重の1~2%(体重50kgの成人で約1kg)含まれており、生体内に最も多く存在するミネラルです。その99%はリン酸と結合したリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)として骨や歯などの硬組織に存在し、残り1%は血液、筋肉、神経などの軟組織にイオンや種々の塩として存在しています。
カルシウムの吸収と働き
カルシウムは主に小腸で吸収されますが、吸収率は成人で20~30%とあまり高くありません。また、活性型ビタミンD、副甲状腺ホルモン、カルシトニン(甲状腺ホルモン)などの関与によって、腸管での吸収、血液から骨への沈着、骨から血液への溶出、尿中への排泄などが制御され、細胞や血液中のカルシウム濃度は一定範囲(8.5~10.4mg/㎗)に保たれています。
骨は約3ヶ月のサイクルで、骨形成(骨へのカルシウムなどの沈着)と骨吸収(骨からのカルシウムなどの溶出)を繰り返しています。
1日の必要量は約600~850mgと言われています。
【100gあたりのカルシウム含有量】 目安
ほしひじき 乾 1,000mg 大さじ1:2g
刻み昆布 940mg 1袋:約40g
カットわかめ 乾 870mg 1人分:10g
あおのり 素干し 750mg 小さじ1:2g
あおさ 素干し 490mg 小さじ1:2g
おから 乾燥 310mg 大さじ1:6g
油揚げ 生 310mg 1枚:20~30g
生揚げ 240mg 1枚:120~140g
きな粉 全粒大豆 黄大豆 190mg 大さじ1:6g
焼き豆腐 150mg 1丁:300~400g
納豆 90mg 1個:30~50g
ごま いり 1,200mg 大さじ1:9g
ごま ねり 590mg 大さじ1:15g
アーモンド いり 無塩 260mg 10粒:14g
くるみ いり 85mg 1粒:5g
らっかせい バターピーナッツ 50mg 10粒:10g
切干しだいこん 乾 500mg 1食分:10g
パセリ 葉 生 290mg 1枝:15g
モロヘイヤ 茎葉 生 260mg 1束:100g
だいこん 葉 生 260mg 1本分(根中1本800g):150g
かぶ 葉 生 250mg 1個:80g
しそ 葉 生 230mg 10枚:7g
こまつな 葉 生 170mg 1株:40g
多品目の高カルシウムの食材を意識して摂取する必要がありそうです。
亜鉛
亜鉛は成人の体内に約2g含まれます。成人ではそのほとんどは筋肉と骨中に含まれますが、皮膚、肝臓、膵臓、前立腺などの多くの臓器に存在し、さまざまな酵素の構成要素となっています。
亜鉛の吸収量は、摂取量や一緒に存在する他の成分により変動しますが、一般的には、約30%と推定されています。
亜鉛は数百におよぶ酵素たんぱく質の構成要素として、さまざまな生体内の反応に関与しています。アミノ酸からのたんぱく質の再合成、DNAの合成にも必要なので、胎児や乳児の発育や生命維持に非常に重要な役割を果たしているほか、骨の成長や肝臓、腎臓、インスリンを作るすい臓、精子を作っている睾丸など、新しい細胞が作られる組織や器官では必須のミネラルです。また、体の細胞にダメージを与える活性酸素を除去する酵素の構成成分であるほか、味覚を感じる味蕾細胞や免疫反応にも関与しています。
1日の必要量は8~11mgと言われます。
また、通常の食事による、亜鉛の過剰摂取の可能性は低いですが、亜鉛の過剰摂取は銅欠乏、貧血、胃の不調など様々な健康被害が生じることが知られているため、耐容上限量は40mgです。
【100gあたりの亜鉛含有量】 目安
あまのり 焼きのり 3.6mg 1枚:2g
わかめ カットわかめ 乾 2.8mg 1人前:10g
あおさ 素干し 1.2mg 小さじ1:2g
刻み昆布 1.1mg 1食分:2.5g
ひじき ほしひじき 鉄釜・ステンレス釜 乾 1.0mg 大さじ1:2g
切干しだいこん 乾 2.1mg 1食分:10g
えだまめ 生 1.4mg 10さや(さやつき):30g
しそ 葉 生 1.3mg 10枚:7g
たけのこ 若茎 生 1.3mg 1本:1kg
ごぼう 根 生 0.8mg 1本:180g
きな粉 全粒大豆 黄大豆 4.1mg 大さじ1:6g
油揚げ 生 2.5mg 1枚:20~30g
糸引き納豆 1.9mg 1個:30~50g
生揚げ(厚揚げ) 1.1mg 1枚:120~140g
あずき こし生あん 1.1mg 1カップ:170g
焼き豆腐 0.8mg 1丁:300~400g
かぼちゃ いり 味付け 7.7mg 大さじ1:10g
ごま いり 5.9mg 大さじ1:9g
アーモンド 乾 3.6mg 10粒:14g
らっかせい ピーナッツバター 2.7mg 大さじ1:10g
くるみ いり 2.6mg 1粒:5g
らっかせい 乾 大粒種・小粒種 2.3mg 殻付き10粒:25g
各々の1食分の含有量が微量なため、
カルシウム同様に多品目摂取する必要があります。
ヴィーガンで不足するとされる栄養素のうち、
EPA・DHAといった脂肪酸は比較的簡単に摂取できそうです。
頑張れば摂取できるのが、カルシウムと亜鉛です。
ビタミンB12とビタミンDに関しては、含まれている植物性食品が限られるうえに、
1食分から摂取できる量が少ないため、場合によってはサプリメントの力を借りる必要があるかもしれません。
結論としてヴィーガンの食事体系は、不足すると予想される栄養素を把握して食事に取り入れていれば問題はないでしょう。
食物繊維、マグネシウム、カリウムなどのミネラル類、葉酸、ビタミンC・Eなどのビタミン類、ファイトケミカル(植物に含まれ、抗酸化力のある化学物質)に関しては豊富なため、生活習慣病予防の観点からは、優れた食事体系であると言えるでしょう。