ヴィーガン生活を実践する上で心配になる栄養素について解説します。
動物性食品を摂取しないため不足が予想されるミネラルがあります。
- ビタミンB12
- ビタミンD
- 必須脂肪酸であるEPAやDHA
- カルシウム、亜鉛、ヨウ素
などが挙げらます。
ビタミンB12
ヴィーガンの食事ではビタミンB12を摂取する機会は明らかに減少します。
ビタミンB12は、動物性食品に多く含まれています。
ビタミンB12は、出生時に母体や母乳より必要量の数千倍が引き継がれると言われています。
加えてビタミンB12は、腸内細菌によっても合成されるので、一般に欠乏することはないと考えられます。しかし、ビタミンB12は胃から分泌されるタンパク質である内因子と結合して小腸(回腸)から吸収されるため、胃全摘手術をした人では、内因子が不足しビタミンB12が吸収されず欠乏する恐れはあります。また小腸にトラブルがある方も注意が必要です。
ビタミンB12が不足すると造血作用がうまく働かず、巨赤芽球性貧血になります。また、脊髄や脳の白質障害、末梢神経障害が起こり、しびれや知覚異常の症状として現れます。
動物性食品を摂取している人に比べれば、ビタミンB12の血中濃度は下がるでしょう。だからといってすぐに欠乏することもないようです。
ビタミンB12を補う方法
1日あたりの成人の必要量は2.4μgと言われています。
ビタミンB12は陸上の植物には含まれておらず、海苔やアオサなどの海藻からしか摂取できません。
【100gあたりのビタミンB12摂取量】
・海苔:58μg
・アオサ:1.3μg
・ワカメ:0.3μg
含有量の最も多い海苔で考えると、1切れあたり約0.4gになりますので、味付け海苔10切れほどで必要量が摂取できる計算になります。
ビタミンD
ビタミンDにはD2からD7の6種類あり、D4~D7は食品にはほとんど含まれていないため、一般的にはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)のことをいいます。
ビタミンD3は、ヒトの皮膚に存在するプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール、プロカルシフェロール)が、紫外線に当たることによって生成した、プレビタミンD3(プレカルシフェロール)から生成されます。
ビタミンD2は、しいたけに含まれるプロビタミンD2(エルゴステロール)から生成されます。
ビタミンDの吸収と働き
ヒトを含む哺乳動物では、ビタミンD2とビタミンD3はほぼ同等の生理的な効力をもっています。ビタミンDは肝臓と腎臓を経て活性型ビタミンDに変わり、主に体内の機能性たんぱく質の働きを活性化させることで、さまざまな作用を及ぼします。ビタミンDの生理作用の主なものに、正常な骨格と歯の発育促進があります。さらに、小腸でのカルシウムとリンの腸管吸収を促進させ、血中カルシウム濃度を一定に調節することで、神経伝達や筋肉の収縮などを正常に行う働きがあります。
ビタミンDの1日の摂取基準量
日本人の食事摂取基準(2020年版)では1日の摂取の目安量が、18歳以上の男女ともに8.5㎍(マイクログラム)、耐用上限量が100㎍と設定されています。
【100gあたりのビタミンD含有量】
・きくらげ(乾燥):85μg
・干ししいたけ:17μg
・えのきたけ:0.9μg
・ぶなしめじ:0.5μg
乾物やきのこ類を組み合わせることで必要量は摂取できそうですが、含まれている食材が限られるため常食とするのは難しいかもしれません。
日照に恵まれている日本では、健常人が適度な日光のもとで通常の生活をしている場合、ビタミンDが不足することは少ないと考えられます。しかし、高齢者では、皮膚におけるビタミンD産生能力が低下することに加え、屋外での活動量減少により日光照射を受ける機会が減少する場合もあり、通常よりも多くのビタミンDを食事から摂取する必要があることが指摘されています。日ごろ、日光に当たる機会が少ないと感じている人は、意識して食事からビタミンDを摂取することすることが大切になるでしょう。
DHA・EPA
人間の脳や目の網膜の脂質成分で、脳や目の機能を健全に保つDHA(ドコサヘキサエン酸)。
そして、血流を良くし、中性脂肪を低下させる役割があるEPA(エイコサペンタエン酸)。
1日の必要量は、DHAとEPAを合わせて1gと言われています。
しかし、これらは青魚にしか含まれていないため、
ヴィーガンの食事で摂取することができません。
代替品としてALAがあります。体内に入ったALA(α-リノレン酸)の一部は、EPAやDHAに変換されます。
ALA(α-リノレン酸)は、オメガ-3系脂肪酸の一つで、体に必要な不飽和脂肪酸の一種です。主に植物の種子や葉緑体などに見られ、亜麻仁油、チアの種子、くるみ、大豆油などの食品に含まれています。
ALAは、体内でEPA(エイコサペンタエン酸)およびDHA(ドコサヘキサエン酸)に変換されますが、この変換は比較的効率が低い(10〜15%)です。
ALAは、心血管系の健康維持、炎症の調節、脳機能のサポートなどに関与していると考えられています。特に心臓病の予防や管理において、ALAが健康に寄与する可能性が指摘されています。
食事においては、亜麻仁油、チアの種子、くるみ、大豆油、えごま油などがALAの豊富な摂取源となります。
ALA(α-リノレン酸)の1日の必要量は2gです。
・くるみ:77g~115g
・亜麻仁油:11.6~17.5g
・えごま油:10.6g~16g
大さじ1程度の亜麻仁油やえごま油で十分に補えることから、
ヴィーガンでも比較的簡単に摂取できる栄養素と言えます。
カルシウム
カルシウムは、人体において重要なミネラルの一つです。主に骨や歯の形成、神経伝達、筋肉収縮などに関与しています。食品からの吸収が主な供給源で、乳製品、葉緑野菜、堅果類などに多く含まれています。不足すると骨折や筋肉の機能障害などが起こる可能性があります。日常の食事で適切なカルシウム摂取を心がけることが重要です。
カルシウムは、体重の1~2%(体重50kgの成人で約1kg)含まれており、生体内に最も多く存在するミネラルです。その99%はリン酸と結合したリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)として骨や歯などの硬組織に存在し、残り1%は血液、筋肉、神経などの軟組織にイオンや種々の塩として存在しています。
カルシウムの吸収と働き
カルシウムは主に小腸で吸収されますが、吸収率は成人で20~30%とあまり高くありません。また、活性型ビタミンD、副甲状腺ホルモン、カルシトニン(甲状腺ホルモン)などの関与によって、腸管での吸収、血液から骨への沈着、骨から血液への溶出、尿中への排泄などが制御され、細胞や血液中のカルシウム濃度は一定範囲(8.5~10.4mg/㎗)に保たれています。
骨は約3ヶ月のサイクルで、骨形成(骨へのカルシウムなどの沈着)と骨吸収(骨からのカルシウムなどの溶出)を繰り返しています。
1日の必要量は約600~850mgと言われています。
【100gあたりのカルシウム含有量】 目安
ほしひじき 乾 1,000mg 大さじ1:2g
刻み昆布 940mg 1袋:約40g
カットわかめ 乾 870mg 1人分:10g
あおのり 素干し 750mg 小さじ1:2g
あおさ 素干し 490mg 小さじ1:2g
おから 乾燥 310mg 大さじ1:6g
油揚げ 生 310mg 1枚:20~30g
生揚げ 240mg 1枚:120~140g
きな粉 全粒大豆 黄大豆 190mg 大さじ1:6g
焼き豆腐 150mg 1丁:300~400g
納豆 90mg 1個:30~50g
ごま いり 1,200mg 大さじ1:9g
ごま ねり 590mg 大さじ1:15g
アーモンド いり 無塩 260mg 10粒:14g
くるみ いり 85mg 1粒:5g
らっかせい バターピーナッツ 50mg 10粒:10g
切干しだいこん 乾 500mg 1食分:10g
パセリ 葉 生 290mg 1枝:15g
モロヘイヤ 茎葉 生 260mg 1束:100g
だいこん 葉 生 260mg 1本分(根中1本800g):150g
かぶ 葉 生 250mg 1個:80g
しそ 葉 生 230mg 10枚:7g
こまつな 葉 生 170mg 1株:40g
多品目の高カルシウムの食材を意識して摂取する必要がありそうです。
亜鉛
亜鉛は成人の体内に約2g含まれます。成人ではそのほとんどは筋肉と骨中に含まれますが、皮膚、肝臓、膵臓、前立腺などの多くの臓器に存在し、さまざまな酵素の構成要素となっています。
亜鉛の吸収量は、摂取量や一緒に存在する他の成分により変動しますが、一般的には、約30%と推定されています。
亜鉛は数百におよぶ酵素たんぱく質の構成要素として、さまざまな生体内の反応に関与しています。アミノ酸からのたんぱく質の再合成、DNAの合成にも必要なので、胎児や乳児の発育や生命維持に非常に重要な役割を果たしているほか、骨の成長や肝臓、腎臓、インスリンを作るすい臓、精子を作っている睾丸など、新しい細胞が作られる組織や器官では必須のミネラルです。また、体の細胞にダメージを与える活性酸素を除去する酵素の構成成分であるほか、味覚を感じる味蕾細胞や免疫反応にも関与しています。
1日の必要量は8~11mgと言われます。
また、通常の食事による、亜鉛の過剰摂取の可能性は低いですが、亜鉛の過剰摂取は銅欠乏、貧血、胃の不調など様々な健康被害が生じることが知られているため、耐容上限量は40mgです。
【100gあたりの亜鉛含有量】 目安
あまのり 焼きのり 3.6mg 1枚:2g
わかめ カットわかめ 乾 2.8mg 1人前:10g
あおさ 素干し 1.2mg 小さじ1:2g
刻み昆布 1.1mg 1食分:2.5g
ひじき ほしひじき 鉄釜・ステンレス釜 乾 1.0mg 大さじ1:2g
切干しだいこん 乾 2.1mg 1食分:10g
えだまめ 生 1.4mg 10さや(さやつき):30g
しそ 葉 生 1.3mg 10枚:7g
たけのこ 若茎 生 1.3mg 1本:1kg
ごぼう 根 生 0.8mg 1本:180g
きな粉 全粒大豆 黄大豆 4.1mg 大さじ1:6g
油揚げ 生 2.5mg 1枚:20~30g
糸引き納豆 1.9mg 1個:30~50g
生揚げ(厚揚げ) 1.1mg 1枚:120~140g
あずき こし生あん 1.1mg 1カップ:170g
焼き豆腐 0.8mg 1丁:300~400g
かぼちゃ いり 味付け 7.7mg 大さじ1:10g
ごま いり 5.9mg 大さじ1:9g
アーモンド 乾 3.6mg 10粒:14g
らっかせい ピーナッツバター 2.7mg 大さじ1:10g
くるみ いり 2.6mg 1粒:5g
らっかせい 乾 大粒種・小粒種 2.3mg 殻付き10粒:25g
各々の1食分の含有量が微量なため、
カルシウム同様に多品目摂取する必要があります。
ヴィーガンで不足するとされる栄養素のうち、
EPA・DHAといった脂肪酸は比較的簡単に摂取できそうです。
頑張れば摂取できるのが、カルシウムと亜鉛です。
ビタミンB12とビタミンDに関しては、含まれている植物性食品が限られるうえに、
1食分から摂取できる量が少ないため、場合によってはサプリメントの力を借りる必要があるかもしれません。
結論としてヴィーガンの食事体系は、不足すると予想される栄養素を把握して食事に取り入れていれば問題はないでしょう。
食物繊維、マグネシウム、カリウムなどのミネラル類、葉酸、ビタミンC・Eなどのビタミン類、ファイトケミカル(植物に含まれ、抗酸化力のある化学物質)に関しては豊富なため、生活習慣病予防の観点からは、優れた食事体系であると言えるでしょう。